ピーター・ズントーによるアルマナユヴァ亜鉛鉱山博物館(Allmannajuvet)は、ノルウェーのフィヨルド奥の小さな町Saudaにある。
Saudaの人口は約4,600人。山に囲まれたこの町には川や滝が多くあり、かつてはこれを利用した水力発電と山で採掘した亜鉛の精錬が主要産業であった。既に亜鉛鉱山は閉山されているが、現在でも工場施設をそのまま利用し、船で運ばれる鉱物の精錬を行っている。また冬はスキーの基地となるためそれなりに栄えるようだが、私が訪れた5月は町中にも人影はほとんどなく、寂しいものであった。
ミュージアムは、1899年に閉山した鉱山跡地に、2016年にオープンした。この町の主要産業であった鉱山の歴史を後世に伝えるためである。ただしこの施設は6月から8月までしかオープンしていない。5月はクローズ中である。予め分かっていたが、旅の都合上やむを得ない。なので今回は外観のみの見学であった。
ミュージアムは町から川沿いの街道を10km程さかのぼった場所にある。タクシーでも行けるが、時間もたっぷりあるので、歩いて向かうことにした。すれ違う人や車もほとんどなく、渓谷も美しく、快適なハイキングであった。
やがて写真で見覚えのある建物が見えてきた。手前からトイレ、カフェ、ギャラリーである。まるで以前からそこにあるかのように、周辺の景観に溶け込んでいる。荒々しい岩山や激しい流れの渓谷とケンカすることも負けることもなく調和している。
ルート上、まずはトイレからの見学となるのだが、いきなりスゴイ。石垣のように積み上げられた擁壁にせり出すように建っているのだ。この擁壁は以前からあるものではなく、今回新たに作られたそうだ。
よく見ると、石が一つ一つ丁寧に積まれていることが分かる。
亜鉛で作られた配置図も美しい!
このトイレ(と駐車場)を起点として、当時の鉱夫たちが通った道に沿って、カフェとギャラリーが点在しているのだが、その道も新たに石垣を組み直して再整備されている。
道を進むと見えてくるのはカフェ。
カフェはかなりの急斜面に建てられている。
トイレ、カフェ、ギャラリーは、建物として全て同じ造りになっている。
平らではない場所に木の枠組みをつくり、ジュート布に黒いアクリル樹脂を塗って仕上げたボックス状の建物本体を組み込んでいる。
さらにやや浮かせてトタン屋根を設けている。凝り過ぎ!
道はギャラリーにつづく。
ギャラリーはほぼ崖のような場所に建てられており、足元は岩盤に金属プレートでしっかり固定されている。
それにしても、何故この場所なのか? 何故この工法なのか?
出入口は建物を回り込んだ反対側にある。
カフェもそうであるように、階段は手すりも含めて、建物本体と一体の仕上げである。ズントーと言えば繊細なディテールをイメージしがちであるが、時々こうした大胆な仕上げも見られる。もちろん何十何百というスタディの結果なのであろう。
道はさらに奥の鉱山に続く...
見学を終えての最初の感想は「我ながらよくこんな場所まで来たなあ」であった。何せノルウェー第二の都市ベルゲンから路線バスを3本乗り継ぎ、半日以上かけて来たのだ。最初にも書いたようにクローズしているのに!
とは言え充分にその価値はあったと思う。人に出会うこともなく、ズントー建築を独り占め出来たのだ。
もちろん内部を見ることが出来なかったことは残念であるが、それはまた次の機会としておこう。(多分もう来ることはないと思うが)